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【INTERVIEW】岩手県八幡平市:中軽米 真人氏
 ~自治体が求めるべきは「働いて楽しい街」

2021.09.08

地域を支えるキーパーソンに、逆参勤交代から広がるつながりを語っていただく「INTERVIEW」。
今回は、岩手県八幡平市で続々と起業家を輩出するなどアクティブに活動されている中軽米 真人氏(八幡平市 商工観光課 企業立地推進係長)にお話を伺いました。

中軽米 真人氏(八幡平市 商工観光課 企業立地推進係長)
 

自治体が求めるべきは
「住んで楽しい街」よりも「働いて楽しい街」

逆参勤交代の推進には、地方が主体となって都市と関わる心構えが重要です。そのモデルケースとなり得るのが、丸の内プラチナ大学の第1期から繋がりのある岩手県八幡平市です。同市では、2015年から「スパルタキャンプ」という無料の短期集中型プログラミング合宿を開催。海外からも参加者を集めるこのキャンプを通じて、関係人口や移住者の増加、起業家の輩出に寄与しています。八幡平市ではなぜこのような取り組みを始めたのでしょうか。そして、このような形の地方と都市の連携は逆参勤交代にどのような影響を与えるのでしょうか。
今回、スパルタキャンプの発起人である中軽米氏に、松田智生(丸の内プラチナ大学副学長・逆参勤交代コース講師/三菱総合研究所主席研究員)と田口真司(丸の内プラチナ大学副学長/エコッツェリア協会プロデューサー)がインタビューしました。

松田 まずはスパルタキャンプについてお聞きします。八幡平でプログラミング合宿を開催した経緯を教えてもらえますか。

中軽米 「なぜ過疎地でITイベントを?」とよく聞かれますが、むしろ「過疎地だからこそのITイベント」なんです。八幡平では高校卒業時に1割、大学卒業時に2割の若者が就職で地域から出ていきますが、その背景には地域に魅力的な仕事が少ないことが関係しています。これを改善するためには、内容的にも給与的にも魅力ある仕事をこの地につくることが必要でした。そこで若者に人気の情報通信業に注目し、何か取り組みができないかと考えて生まれたのが、受講料も宿泊費も無料で誰でも参加できる短期集中型プログラミング講座のスパルタキャンプです。

松田 地方創生に取り組む際、かつては工場誘致や物流拠点の整備などハード面での切り口が多かったですが、八幡平の場合は人材育成に特化している点が面白いと思います。また、スパルタキャンプに参加したからといって、八幡平での起業を義務付けてはいないんですよね。縛るのではなく敢えてオープンにしている点も人気の要因だと思いますが、どのように集客していたのですか。

中軽米 どこで起業してもらってもいいと伝えていますが、結果的に八幡平で起業する方も結構いて、これまでに10社以上が立ち上がっています。初めのうちは大学の学食に行って学生たちに声をかけ、「こんなのやるんだけどどう?」とチラシを渡して集客していました。当初は集客に苦戦していましたが、堀江貴文さんに協力していただき、YouTubeやSNSをフル活用したことで飛躍的に参加者を伸ばすことができました。

「スパルタキャンプ」の様子

田口 スタートのきっかけは人口減少対策ですが、調査だけで終わるのではなく、かといってアウトプットだけを重視するわけでもなく、バランスを取りながら綿密に戦略を練って実行している点が素晴らしいと感じました。
我々は逆参勤交代というプロジェクトを展開していますが、こうした取り組みを通じて地方と都市の関わりを増やしていく際、何が大切になるとお考えですか。

中軽米 地方と都市との関わりというと、最近「ワーケーション」という言葉が注目されていますよね。八幡平でも取り組みを行っていますが、企業の人事や総務の方の話を聞いてみると、会社としてワーケーションを推進するメリットを定量的に説明しづらいため、あまり乗り気ではないことが多いんです。確かにワーケーションやテレワークによる効果について明確なデータはありません。自治体側も誘致する際、ついついバケーション要素をアピールしがちですが、企業としてはコアタイムにはしっかりと働いてもらいたいんですよね。ただフリーランスの方からは、ワーケーションを通じて通常なら知り合えないような人と出会える、リフレッシュしながら働けるという意見もあります。ですから、都市部の人々の特性やバックグラウンドを見ながら施策を考えることが必要だと感じています。

日本人は習慣で動くことが好きな国民性だと思いますので、逆参勤交代のような仕組みを導入すると定期的に人材の移動が起こりますから、その意味ではポテンシャルがあると思います。

松田 バケーション型のワーケーションになってしまうと「遊んでいるのか仕事しているのかよくわからない」と労務管理担当者は頭を抱えてしまいます。ではどうすべきかと言うと、八幡平の場合はエデュケーション型のワーケーションが合っていると思います。スパルタキャンプがわかりやすい例ですが、何かを学びに行くために地方に行くのであれば企業にも個人にもメリットがあります。そのような多様な形態の受け入れ方を作れるかが、地方にとっての鍵になるでしょう。

上段左・松田(三菱総合研究所)/上段右・中軽米氏/下段・田口(エコッツェリア協会)

田口 都市部の副業人材を受け入れる自治体も増えていますが、この点についてはどのようにご覧になっていますか。

中軽米 八幡平では、数年前から「Skill Shift」という都市部の正社員と地域企業を結ぶ副業プラットフォームを通じて副業人材を受け入れています。地方の場合、人材不足だけではなく事業継承も大きな問題になっていますが、副業人材と地方企業をマッチングすることが解決に繋がるのではないかと期待しています。もちろん母数は少ないでしょうが、定期的にこの地に通う中で腰を据えて事業をやろうという人が出て来てくれると潮目が変わるのではないかと見ています。

松田 経営的には安定していても、跡継ぎがいないことを理由に廃業してしまう企業は本当に多いんですよね。廃業問題に関しては、逆参勤交代を通じて都市部の人材が地域とつながることで廃業を回避し事業継続できる可能性がありますし、スパルタキャンプのようなITの取り組みを通じて解決できる部分も少なくないと思っています。

田口 さまざまなやり方があると思いますが、地域の課題を解決したいという思いは皆同じですよね。最後に、今後の八幡平市について中軽米さんの考える展望をお聞かせください。

中軽米 民間の不動産会社が「住みたい街ランキング」のようなものを作っていますよね。ああいったランキングに入るのは“住んで楽しい街”だと思いますが、それだと移り変わりが激しいんですよね。自治体としては流行り廃りがあるものではなく、“働いて楽しい街”を追い求めるべきだと考えています。

田舎では、親が子供に対して「つまらない田舎にいても仕方がない」「都会の方が仕事がある」と言って、結果的に子供を都会に送り出している実態があります。でも「八幡平にいたらめちゃくちゃ面白い仕事があるんだよ」「父さんや母さんはここから世界を相手に仕事しているんだよ」といったことを言えるようにするのが行政が目指すべきまちづくりのはずなんです。「仕事がつらい」と言う人よりも「仕事が楽しい!」と言う人が多い世の中の方が面白いはずですから、八幡平をそんな街にしていきたいなと思っています。

そのためにも自分が楽しむことが重要です。スパルタキャンプもそうですが、私がプロジェクトに取り組む際には「面白いこと以外、やるの禁止」というルールを課しています。ただ利益を求めるだけのつまらない事業ではなくて、面白いものを追求したいんです。ですから、普通の行政とは違う“変なこと”をやっている街に来たい人、面白いことをやりたい人はどんどん八幡平に来てもらいたいですね。

松田 “住んで楽しい街”よりも“働いて楽しい街”というのはとても響く言葉ですね。逆参勤交代を広げていくことで、そんなまちづくりのお手伝いができればと思います。本日はありがとうございました。

PROFILE
中軽米 真人(なかかるまい まこと)
八幡平市 商工観光課 企業立地推進係長
住むところに関係なく、誰もがおもしろいことだけをして働ける社会を創ろうと、育てた起業家が次世代を育成するエコシステム「起業志民プロジェクト」を創始した黒幕。世界中から起業家志望者を集めて過疎地にテックベンチャーを量産し、事業計画立案から資金調達、事業のスケールアップまでコミットする。新規事業の立ち上げが大好物で、これまで関与して倒産した会社はゼロ。「おもしろいか、おもしろくないか」だけを行動原理に生きる。

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