TOKYO-MARUNOUCHI to REGIONAL AREAS

INTERVIEW

「どんなに頑張ってもヨソモノはヨソモノ」だからこそできる地方創生の形

長崎県壱岐市高田 佳岳 氏

地域を支えるキーパーソンに、逆参勤交代から広がるつながりを語っていただく「INTERVIEW」。
今回は、長崎県壱岐市で「壱岐イルカパーク&リゾート」の運営を行う高田 佳岳 氏(IKI PARK MANAGEMENT株式会社 代表取締役)にお話を伺いました。

高田 佳岳 氏(IKI PARK MANAGEMENT株式会社 代表取締役)

「どんなに頑張ってもヨソモノはヨソモノ」
だからこそできる地方創生の形

博多のような九州の都会からもアクセスが良好で、豊富な観光資源があり、酒類を中心とした商工業が盛んな長崎県壱岐市。いち早く全島に光ファイバー網を設置したり2018年にはSDGs未来都市に選定されるなど、環境・経済・社会それぞれの面から持続可能な社会の実現に取り組んでいる国内有数の“元気な離島”として注目されています。

壱岐島は、その高いポテンシャルに注目して移住してきた幾人もの“ヨソモノ”が活躍している地域でもあります。彼らは、この島のどんなところに惹かれて移住してきたのでしょうか。そしてどうやって地域と関わり、どう貢献していこうと考えているのでしょうか。
こうした疑問を明らかにすることは、これからの逆参勤交代のあり方に大いに参考になるはずです。

そこで今回は、2017年に東京から移住して、壱岐島のイルカの飼育施設である壱岐イルカパーク&リゾート(以下、イルカパーク)の代表取締役に就任した高田佳岳氏(IKI PARK MANAGEMENT株式会社)にお話を伺い、そのヒントを探りました。インタビューは松田智生(丸の内プラチナ大学副学長・逆参勤交代コース講師/三菱総合研究所主席研究員)と田口真司(丸の内プラチナ大学副学長/エコッツェリア協会プロデューサー)が行いました。

逆参勤交代の推進に必要な「覚悟」

田口 まずは、高田さんが壱岐に関わるようになったきっかけを教えていただけますか。

高田 もともとは東京で働いていて、2017年に施行された有人国境離島法(正式名称:有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法)に関係する調査事業にアドバイザーとして携わっていました。その際に全国の国境離島を回っていたのですが、その中のひとつに壱岐島があったことでこの島との縁が生まれました。調査事業が終わってからも壱岐島に関する仕事に取り組んでいたのですが、その後、このイルカパークの経営再生を依頼されたので、お話を請けると共に移住してきました。現在も引き続きイルカパークの経営を行いながら、島全体の観光振興にも関わっています。

田口 2019年にトライアル逆参勤交代の実施場所として壱岐島が選ばれましたが、松田さんが壱岐を逆参勤交代の行き先にした理由はなんだったのでしょうか。

松田 それまでの逆参勤交代にはなかった、離島版モデルを作りたいという思いがあったからです。逆参勤交代には「ローカルイノベーション型」「リフレッシュ型」「武者修行型」「育児・介護型」「セカンドキャリア型」といった多様な形態がありますが、壱岐の場合はすべてに当てはまると思っています。中でも高田さんが運営するイルカパークは、島内を活性化させるためのローカルイノベーション型の取り組みや、イルカと触れ合うことで精神疾患の症状改善が期待できるドルフィンセラピーを通じたリフレッシュ型としての活用ができると思っています。自然と温泉とゴルフ場はどこにでもありますが、イルカは他にはないポイントですし、そのイルカをセラピーや人事研修に活かすのはとても新鮮な発想だと思います。

田口 トライアル逆参勤交代では、普段は東京で働く10名以上の人が2泊3日で壱岐を訪れ、イルカパークでプログラムに取り組んだり、バーベキューをしながら意見交換をさせていただいたりしました。首都圏人材と交流する上での利点や課題について感じたことはありますか。

高田 僕が壱岐に移住して2年半が経ちますが、狭いところで活動しているのでどうしてもリソースやアイデアが限られていってしまうんです。なので、逆参勤交代のような形で様々な視点やアイデアを持った方と触れ合い、壁打ちをさせてもらったことは非常に刺激になりましたし、実際に素晴らしい事業アイデアも生まれました。例えば、逆参勤交代で壱岐を訪れた方のアイデアをヒントに、コロナ禍でも遠方の方に壱岐を楽しんでいただく“オンライン買い物”の取り組みを行うようになりました。そういった具体的なファクトにまで落とし込めたのはとても良かったですし、僕自身嬉しかったですね。

課題という点では、継続することにハードルがあると感じます。先ほどのような例がある一方で、実際に踏み込んで事業化するところまで連携を続けていくことはなかなか難しいですよね。そういった意味で、首都圏から来る方も住民側も互いにもう少し覚悟を持ってお話ができるといいなと思っています。

松田 おっしゃる通りだと思います。提案しっ放しになってしまったり、地元の人が提案され疲れしないようにすることはとても重要です。そのためにも、続けること・深めること・広めることの3つは、逆参勤交代を行っていく上で大切にしたいと思っています。

トライアル逆参勤交代の様子(2019年9月)

地域とのコミュニケーションで求められる割り切り、自覚、我慢

田口 高田さんは壱岐の方々から見るといわば“ヨソモノ”という立場になりますが、移住してからこれまで、地元の方との距離感のとり方で感じた難しさや苦労などはありますか。

高田 以前、地元の方と話をしていて「どうせあなたもそのうち帰るんでしょ?」と言われたことがあります。その時には「いや、帰りませんよ」と答えたのですが、彼らからすると、帰る場所があるということは帰れることと一緒なんです。はじめのうちは「もっと地元の人と近くなろう」「寄り添っていこう」と考えていましたし、時には「なかなか受け入れてもらえない…」と思うこともありました。でも、考えてみれば僕はいつまで経っても壱岐出身の人間になれるわけではありませんし、どんなに頑張ってもヨソモノはヨソモノなんですよね。だから、必要以上に地元に入りすぎないということを心がけるようになりましたし、そう考えることで随分楽になりました。今もヨソモノであることを自覚した上で言葉を発するようにしています。

それから、地元の方と話をする際にはスピード感にも気をつけています。「なんでこうしないの」「もっとこうした方がいいよ」と詰めて行くのではなく、地元の時間の流れに合わせるんです。東京で仕事をしているとすごいスピードで色々な物事が動いていくと思いますが、ここでは、気長に流れに身を任せることもすごく大事だと思います。

松田 距離感に関しては「和して同ぜず」ということですね。これは逆参勤交代で訪れる側にとっても必要な心得だと思います。

スピード感の話は壱岐に限らず、地域の方と接する上で大事なポイントだと感じます。私も以前、四国のある街で地元の方と話をしているときに「あれはどうなっているんですか」と詰めてしまったところ、移住者の方からたしなめられたことがあります。その方は東京の大手出版社でばりばり働いていた方なのですが、「東京と地方では時間の流れ方が違うんです」と言われ、大いに反省したことがあります。

田口 その意味でも、高田さんのように東京のものの進め方を理解しつつ、地元のことを理解して変換してくれる方がいる、ということがとても大事なんですね。

上段左・松田(三菱総合研究所)/上段右・田口(エコッツェリア協会)/下段・高田氏

田口 続いて、イルカパークの展望について伺いたいと思います。今後の取り組みや抱負をぜひ教えて下さい。

高田 現在検討しているのはバリアフリーについての取り組みです。古い施設なので、ハード面でバリアフリーな設備を
整えていくことに課題を感じていました。そんなときに、ある施設の方にイルカパークを見に来ていただいた際に、「あなたたちに介護は求めていないけれど、私たちが自由に活動できるフィールドが欲しい」と言われたんです。僕はバリアフリーのためには、施設内のバリアをすべて平らにして誰でも苦労なく動けるようにする必要がある、と思っていたのですが、そうではなくて、まずは僕たち自身の中にある心のバリアを取っ払うことが必要なんだと気付きました。考えてみれば、イルカたちは誰に対してもニュートラルに接してくれていますし、どのような人でもイルカと近付いて楽しんでもらうことがこの施設のそもそもの目的です。この目的を達成するためにも、精神的なバリアフリーを全面的に進めていき、誰がどんな時に来ても周囲に気兼ねなく楽しめるような環境を作っていこうと考えています。

田口 とても素敵なお話ですね。目に見えるものをフラットにすることだけがバリアフリーではないという視点は、他の地域や事業にも通ずるお話だと思いました。最後に、丸の内プラチナ大学や逆参勤交代に対して期待することはありますか。

高田 壱岐ではこれまで、SDGsへの取り組みやスーパーシティ構想が掲げられていたのですが、コロナ禍の影響で止まってしまっているんですよね。ただ、世の中には同じくコロナの影響を受けながらも前進している地域もあります。その穴をどうやって埋めていくかについて、逆参勤交代の方々と議論して具体的な事業計画にまで落とし込めていけたら、すごく良いなと思っています。

それから、壱岐では離島留学を受け入れていますし、イルカパークでも1日お子様を預かってプログラムを提供することもできます。このような制度やサービスを取り入れて、家族や子ども連れでの逆参勤交代というのも面白いでしょうし、そういった、他の地域とは異なるワーケーションのスタイルを実現できたらいいですよね。

松田 これからの地方創生は、地域の様々な事業が一体となってコングロマリットとして動いていくことが必要ですし、イルカパークはそうなれる可能性を持っているので期待したいと思います。

冒頭で高田さんも指摘していたように、今後の逆参勤交代では「提案した後にどうするか」が重要になりますが、コロナの影響で働き方が変わってきていることや、副業・兼業を解禁する企業が増えていることは追い風になるでしょう。この流れを活かして我々も取り組んでいきたいと思います。

Profileプロフィール

高田 佳岳 氏(たかだ よしたけ)

IKI PARK MANAGEMENT株式会社 代表取締役
水産系の大学院を卒業後、大手広告代理店で勤務しながら、東日本大震災の被災地で“追悼”と“復興”の祈りを込めた花火を打ち上げる「LIGHT UP NIPPON」を主宰。2013年に独立し、広告プロデュースやプランニングを手がける株式会社ハレを創業。2018年より長崎県・壱岐島へ移住し、イルカパークの運営などを行うIKI PARK MANAGEMENT株式会社の代表取締役を務める。