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INTERVIEW

JOCA×逆参勤交代は「半学半教」を体現する

長野県駒ヶ根市堀田 直揮 氏

地域を支えるキーパーソンに、逆参勤交代から広がるつながりを語っていただく「INTERVIEW」。 今回は、長野県駒ヶ根市で地域づくりに取り組む堀田 直揮氏(公益社団法人 青年海外協力協会 理事/事務局長)にお話を伺いました。

南アルプス(赤石山脈)と中央アルプス(木曽山脈)という”ふたつのアルプス”が映えるまちとして知られる長野県駒ヶ根市。東洋経済新報社が毎年発表している『住みよさランキング』でも上位常連で移住先やワーケーションの対象としても注目を集めている地域です。2018年、そんな駒ヶ根市に青年海外協力隊の帰国隊員を中心に組織されている公益社団法人 青年海外協力協会(JOCA)が東京から本部機能を移しました。JOCAが駒ヶ根市に移転したのは、国内の様々な地域での活動やまちおこしに関わる上で、自分たち自身も都市ではなく地域から取り組むべきという考えがあったからです。このように組織ごと東京から地方へと移動することは、今後日本中に逆参勤交代を展開していく上で大いに参考になるものです。

そこで今回は、地域との関係構築のポイントや逆参勤交代への期待について、JOCAの理事/事務局長を務める堀田直揮氏に、松田智生(丸の内プラチナ大学副学長・逆参勤交代コース講師/三菱総合研究所主席研究員)と田口真司(丸の内プラチナ大学副学長/エコッツェリア協会プロデューサー)がインタビューしました。

ヨソモノだからこそ「市民になる」ことが重要になる

田口 堀田さんには、2019年に開催したイベント「信州駒ヶ根版ワーケーション」にご登壇いただき、都市と地域との連携に対する思いについて語っていただきました。あらためて本記事の読者に向けて、まずはJOCAという組織について教えていただけますか。

堀田 JOCAは青年海外協力隊のOB・OGが中心となって立ち上げた組織です。隊員たちが海外で培った経験や知識を活かして、日本各地の拠点で地域づくりに取り組んでいます。東日本大震災以降は国内課題に向き合うことをひとつの柱にしているのですが、様々なプロジェクトを実施していく過程で「地域に寄り添うことを掲げている組織が東京に本部を置いていていいのだろうか」という議論が起こり、2018年に長野県駒ヶ根市に本部を移転しました。それに伴って、私も東京から家族で移住して今に至ります。

田口 青年海外協力隊自体が“ヨソモノ”として海外に赴いていく存在ですが、帰国後にも国内の知らない土地にヨソモノとして入っていくのですね。ヨソモノだからこその利点や難しさはありますか?

堀田 メリットとして、ファーストコンタクトでポジティブに受け止めてもらいやすい点が挙げられます。青年海外協力隊の場合、「面白そうな人たちが来た」と物珍しがられたり期待されたりするので人や組織とつながりやすいんです。一個人で地域に入って行く場合、そうした雰囲気づくりはなかなか難しいのではないかと思います。その反面、地域の人たちと一緒に走ろうとしていたはずが振り返ったら誰もいない、といった失敗は多くありますし、そういう状況になることを最も恐れています。

駒ヶ根市に移転した際、JOCAの代表理事である雄谷良成は「これから駒ヶ根市で何をするのか」というメディアからの問いに対して「まずは市民になります」と答えています。何か具体的な取り組みを挙げるとどうしても“お手並み拝見”という雰囲気になってしまいますが、市民の皆さんと同じ目線で課題を見るという姿勢を大事に駒ヶ根市での活動をスタートしました。

田口 堀田さんが思う、市民になるためのコツは何かありますか。

堀田 市民の方と同じ責務を負い、地域に対する義務を果たすことだと思います。例えばJOCAの事務所は市内の商店街に構えていますが、商店街の方々が取り組んでいることには私たちも積極的に参加しますし、冠婚葬祭などの行事にも参加しています。地元の方は参加しなくても大丈夫だよと気を使って言ってくださるのですが、地域の“当たり前”のことに参加することが市民としての第一歩ではないかと思います。


JOCA本部オフィス。オープンスペースで地域の方が気軽に利用できる

松田 神輿に担がれるのではなくサポーターに徹する、俺が俺がではなく支える人になるというのはとても大事なことですよね。

以前に聞いたところでは、青年海外協力隊は毎年1000人ほどが海外に派遣され、常時2000人ほどが現地活動に従事していて、さらにOB・OGが5万人ほどいるんですよね。つまりストックとしての5万人の人材と、フローとしての1000人の人材がいる。これはすごい財産ですよね。地方創生の最大の問題は担い手が少ないことなので、青年海外協力隊のように海外で酸いも甘いも噛み分けた人々の力を地域活性化に役立てられるのは非常に素晴らしいと思います。

堀田 ただ、実はそこにも課題があるんです。青年海外協力隊の隊員は平均して26歳前後で派遣されて2年で帰国します。一般企業で30歳前後と言えば、仕事も覚えて中間管理職のトレーニングも積む年齢ですが、その経験が抜けているんです。もちろん海外で苦しい思いや貴重な体験をしていますが自由に行動してきた部分も多いですし、その状態で地域でビジネスを行うには弱さがあるんです。だからこそ多様性を育むためにも、JOCAは色々な人々とつながることを大事にしています。

松田 そこは逆参勤交代との連携でカバーできる点かもしれませんね。国内企業で揉まれた経験を持つミドルやシニアの人々と、海外で多様な経験を積んだ青年海外協力隊の人々がつながることで、福沢諭吉が説いた「半学半教」の精神でお互いがリスペクトしながら教え合い、学び合うことができると思いました。

田口 たしかに、私たちも逆参勤交代で色々な業界の方と共に地域に行くと、その人のバックグラウンドごとに地域に対する見方がまったく変わることに驚かされますし、多様な視点はそれだけ勉強になります。仮にJOCAさんのチームと逆参勤交代のチームに加えて地域の人々が交ざり合うとそれだけ切り口が増えますし、地域の魅力や課題を浮き彫りにすることもできるのではないでしょうか。

属性もモチベーションも「ごちゃまぜの街」こそが活気ある街

田口 JOCAの本部が駒ヶ根市に移転してから、これまでどのような取り組みをされてきたのでしょうか。

堀田 最初の2年半ほどはもともと抱えていた東京の仕事が多かったのですが、最近になってウェルネス施設の立ち上げや指定管理者事業など地域に根差した活動をできるようになってきました。
また、移住を考える方にとって、やはり『仕事』は大事なポイントになります。多くの仕事があれば移住者を受け入れる体制も広がりますが、それが少ないから移住者にも魅力的に映らないですし、仮に仕事があってもマッチングが難しいケースも多いです。そのような中で私たちは地域で仕事を作り、地域を支えるための取り組みをしようとしていますが、やはり青年海外協力隊の人材だけではスキルや経験値が不足しているので、逆参勤交代で来られるような都市部で経験を積んだビジネスパーソンの方々に対する期待は大きいですね。

田口 今の堀田さんの言葉はすごく重要で、まさにワーケーションも同じなんですよね。色々な地域がワーケーションを活用して人を呼び込もうとしていますが、ワーケーションで来た人は東京の仕事をしているんです。それでは意味がないとまでは言いませんが、やはり東京から人が来ることで地域のビジネスや産業の活性化や、企業の事業展開につながらないとWin-Winにはなりません。今議論されているワーケーションは「景色のいい場所で仕事ができて快適性が上がったね」というレベルで話が終わっていて、そもそも新しい展開を目指していないことが大きな課題です。本来は地元と一緒になって新しいものを作ることこそが、都市が地域に入っていく上での役割だと思うんですよね。

堀田 初めて逆参勤交代のお話を聞いた時にいいなと思ったのが、基本的には東京の仕事をしながらも週に何日か、あるいはアフター5の時間を地域のために使う点です。何か決まったミッションを行うために行くと言うと地域側の期待値が高まって「いつまでに成果が出ますか?」となりますが、「スキルを持った人がたまたま地域に来ているのだから」と気軽にコミュニケーションを取るくらいの温度感で関わることができれば面白いのではないかと思っています。

松田 観光以上移住未満という、ほどよい距離感の関係人口として何ができるかということですよね。

田口 私たちは大手町の3×3Lab Futureという施設でコミュニティを作っていますが、深く長くコミットする人から月イチ程度で施設に来るライトな人まで、多様な関わり方があります。コミュニティを作る側にいるとどうしても積極的なコミットを期待してしまいますが、そればかりでは逆に人が離れて行ってしまう可能性もあります。それは都市と地域の関係性でも同様で、移住して四六時中地域のことを考える人もいれば、たまに来て少しだけ関わるくらいの人がいてもいいと思うんですよね。私たちとしては後者のタイプのビジネスパーソンを地域とつなぐことができると思いますし、そうした人々と共にプログラムを開発できるといいなと思っています。

堀田 以前3×3Lab Futureでイベントを実施した際に、松田さんや田口さんのお話で印象に残っているのが、「私の地域に来てくださいばかりではなく、地域側からも都市部との接点を積極的に持つことが大事」という言葉です。互いに歩み寄ること、心を開くことが大切だと感じたのですが、まだまだ足りていない部分なので今後意識して取り組んでいきたいと思っています。

松田 今回堀田さんとお話させていただき、「ごちゃまぜ」というキーワードを感じました。堀田さんや田口さんが話題にしたように、定住者や移住者だけでなく月1回程度来る人が、またシニアだけではなく若い人など、多くの人がごちゃまぜになる街こそが活気がある街と言えるんだと改めて感じました。
最後に、今の課題を挙げるとするとどんなことがあるでしょうか。

堀田 「駒ヶ根版のワーケーションはエデュケーションタイプ」と表し、青年海外協力隊の特色のひとつである語学やSDGs、グローカル人材育成を通じた学習プログラム等を展開しているのですが、中学生や高校生との道筋はできてきたものの、最も対象にしたい企業人材へのフックがなかなか掛からないんです。

松田 企業人材のエデュケーション型ワーケーションの呼び込みが課題ということですね。

堀田 そうですね。コロナ禍で動きにくい部分もあったのですが、企業人材にJOCAのプログラムを体験いただくための手法を考えていきたいと思っています。 また、ワーケーションを推進する上で、まず場所を整備していくことが多いと思います。
その際に、景観の良い場所が選ばれることがありますが、それでは外から来た人専用の場所という雰囲気がありもったいないと感じています。普段地元の人が集まるような場所であれば、自然とワーケーション利用の方と住民の接点が作れるようになると思うので、“一緒に使える場所”を整備していきたいですね。

田口 今回はオンラインでの取材でしたが、駒ヶ根市に実際に伺って地元の方と交流する機会も作りながら、一緒にプログラム開発ができればと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

Profileプロフィール

堀田 直揮 氏(ほりた なおき)

公益社団法人 青年海外協力協会 理事/事務局

大学卒業後、青年海外協力隊員として2年間ジンバブエ共和国に赴任し、青少年育成事業に取り組む。帰国後、青年海外協力協会(JOCA)の職員となり、帰国隊員による社会還元活動や海外青年のインバウンド事業に携わる。
東日本大震災の復興支援事業の発展形として、地域づくりのプロジェクトを担当したことをきっかけに地方創生事業に関わり、JOCAと自治体で進める生涯活躍のまちづくり事業を担当。まち・ひと・しごと創生本部事務局で取りまとめられた生涯活躍のまち推進マニュアル、人材育成研修カリキュラムの作成、研修運営に従事。
現在は、JOCA本部移転に伴い、家族とともに長野県駒ケ根市に移住。