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INTERVIEW

逆参勤交代は、「玉手箱」のような存在。

北海道上士幌町大野 雅人 氏

地域を支えるキーパーソンに、逆参勤交代から広がるつながりを語っていただく「INTERVIEW」。 第一弾は、北海道上士幌町と連携して活動を展開する大野 雅人氏(アクサ生命保険株式会社)にお話を伺いました。

左・竹中 貢 氏(北海道上士幌町長)/右・大野 雅人 氏(アクサ生命保険)

逆参勤交代は、「玉手箱」のような存在。
「主語は自分」という言葉のおかげで拓けた、新しい世界

丸の内プラチナ大学「逆参勤交代コース」の受講生である大野 雅人氏が、北海道上士幌町でのフィールドワークに参加したのは、2019年7月のこと。最終日の町長プレゼンで提案した「SDGs推進戦略」の内容が評価され、2020年4月、同町SDGs推進アドバイザーに就任しました。同年12月、大野氏の提案により応募した第4回ジャパンSDGsアワードで、上士幌町は「SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞」を受賞。さらに、2021年5月には『2021年度「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」』に選定されるなど、魅力あふれるこのまちの発展に貢献すべく、逆参勤交代のロールモデルとしてめざましい活躍を見せています。
逆参勤交代との出逢いから、SDGs推進アドバイザーとしての活動、今後の展望に至るまで、松田智生(丸の内プラチナ大学副学長・逆参勤交代コース講師/三菱総合研究所主席研究員)と田口真司(丸の内プラチナ大学副学長/エコッツェリア協会プロデューサー)が、大野氏のこれまでとこれからについてインタビューしました。

田口 大野さんは、2018年~19年に丸の内プラチナ大学のコースを受講いただいていますが、逆参勤交代コースに参加した理由について教えてください。

大野 勤務先で危機管理に従事してきたこともあり、リスクマネジメント、CSR、SDGsの流れで、2018年に「SDGsビジネス速修コース」を受講しました。その後、2019年4月に、プラチナ社会研究会主催の「CCRC・逆参勤交代・丸の内プラチナ大学合同シンポジウム」に参加した際、逆参勤交代構想の提唱者である松田さんと、懇親会で初めてお会いしたんです。ちょうどその翌月に、勤務先の札幌本社に転勤することが決まっていたので、自己紹介を兼ねてその旨をお伝えすると、松田さんが講師を務めておられる「逆参勤交代コース」で、7月に上士幌町を訪問するので参加してみたらどうかとお誘いを受けました。

逆参勤交代のテーマのひとつである地方創生と、長年私が携わってきた国土強靭化は表裏一体であり、また「同じ北海道だから近いかな」、と気軽な気持ちで参加を決めたのですが、まさか札幌から車で4時間ちょっとかかるとは思ってもみませんでした。東京から行くのと大して変わらない場所だったので、大変驚いたことが昨日のことのように思い出されます。

約1700haの広さを誇る日本一広い公共牧場「ナイタイ高原牧場」

田口 実際に参加されていかがでしたか?最終日、竹中町長に提案したアイデアは、どのように発案されたのでしょうか。

大野 先に触れたSDGsビジネス速修コースにて、第1回ジャパンSDGsアワードで「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞し、『2018年度「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」』にも選定された北海道下川町の取り組みについて学んでいました。

その後、逆参勤交代のフィールドワークで上士幌町を訪問した際に、同町が豊かな大地を活かした酪農を中心に町の資源を存分に活かし、食料自給率2000%、電力自給率100%を達成するなど、まさにSDGsの取り組みが盛んに行われていることを目の当たりにして、これは下川町に匹敵するのではないかと直感しました。さらに、ICTインフラの整備や地域MaaSによる交通体系の構築などのSociety5.0の取り組みは、むしろ上士幌町の方が進んでいるかもしれないとさえ思いました。ですので、フィールドワークの課題で、町役場の方からいただいたメインテーマは廃校活用だったのですが、外からの、いわゆる“よそ者”の視点として上士幌町を見つめた時に、SDGsを推進する案を提案したいと強く思いました。

松田 SDGsの取り組みについてもっと訴求するべき、という潜在的な課題に気付けたのは、よそ者の大野さんならではの視点だと思います。そこに町長もハッとさせられたのではないでしょうか。

田口 その後、大野さんは上士幌町SDGs推進アドバイザーに任命されています。経緯と具体的な活動内容について、お話いただけますか?

大野 実は2019年11月に、下川町の町長と面識ができ、視察をさせていただいたのですが、同町が林業を中心とした持続可能なまちづくりに一丸となって取り組んでいて、人口の社会増も実現し、SDGsアワードを受賞した2018年以降は、さまざまな企業からの見学者も後を絶たない状況であることを教えていただきました。

その後、タイミングよく2020年1月末に、上士幌町の竹中町長が札幌出張の際に弊社にご来社くださり、上士幌町もSDGsの取り組みを行いたいとのご相談を受けたので、下川町の取り組みと、上士幌町がSDGsアワードに受賞できるポテンシャルがある旨を改めてお伝えしました。そして、ジャパンSDGsアワードとSDGs未来都市への応募を目指すことを合意し、そのサポートをさせていただくために、同年4月にSDGs推進アドバイザーを拝命しました。実は当初、私では役不足で荷が重いと思ったので、辞退しようと考えたのですが、松田さんの「主語は自分」という言葉を思い出し、お引き受けすることにしました。

最初に取り組んだのは、ジャパンSDGsアワードへの応募に関する業務です。丸の内プラチナ大学「SDGsビジネス速修コース」で習ったとおり、上士幌町の取り組みを整理したSDGs一覧表を私の方で作成し、竹中町長と役場の担当者へお送りすると同時に、すでにSDGs未来都市に選定されている「北海道」と「札幌市」の担当者に協力を依頼しました。その後、応募申請書のたたき台を私が作成し、役場の担当者がまとめ上げてくださったものを、EPO北海道の方と札幌市のSDGs担当者と共にレビューを行い提出しました。その結果、2020年12月、第4回ジャパンSDGsアワードの受賞に至りました。また、同様に2021年2月に「SDGs未来都市」の応募も行いました。

松田 作成された資料も、説得力のある内容だったからこそ、役場の担当者にも熱意が伝わったのではないでしょうか。また、即断・即決で動いてくださった町長と、大野さんの熱量が掛け合わさったことが大きなポイントですね。

上段左・大野氏/上段右・田口(エコッツェリア協会)/下段・松田(三菱総合研究所)

田口 今後上士幌町をさらに良くしていくために、どんな取り組みを行っていく予定ですか?

大野 2021年5月、上士幌町は『2021年度「SDGs未来都市」及び「SDGsモデル事業」』に選出されましたが、ジャパンSDGsアワードが今までの取組について評価されるのに対し、SDGs未来都市はこれからの取り組みが対象となります。SDGs達成に資する2030年の上士幌町のあるべき姿を描き、それに向かってアクションを実行していかなければなりません。
上士幌町のアクションとしては、これまでの取り組みの多くが、まちが主導となって行われてきましたが、今後は、まちと住民が一体となったボトムアップの取り組みを推進していくことが重要であるとして、2021年4月にSDGs推進本部を立ち上げました。そのほかにも、高校生や上士幌町に暮らす若い方たちの意見を取り入れるために、若手中心のプロジェクトチームの立ち上げに取り組むなど、基盤となる体制を整えているところです。

ジャパンSDGsアワードの受賞に続き、「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」に選定されたということは、上士幌町での取り組みを他の市町村にも普及させていくという、大きな責任が生じたことになるので、今後は、その役割を果たすべく、国内外に率先して発信していくことも必要であると考えています。

松田 SDGsを考える際、主語が極めて大事になりますが、住民がまちのSDGsの取り組みに主体的に関わることによって、暮らしがより良い方向へ変わっていく、それこそが目指すべき姿ではないかと思います。上士幌町の取り組みは、単なる国内の好事例ではなく、世界に誇り得るものだと思いますので、いつかSDGsの国際会議を上士幌で実施し、世界の市町村とベストプラクティスを共有するような取り組みをしたいですね。

田口 逆参勤交代コース、参加してみて改めていかがでしたか?魅力についてお聞かせください。

大野 逆参勤交代は私にとって、ふたを開けると予期せぬものが次々と飛び出す「玉手箱」のような存在です。上士幌町のフィールドワークに参加して以来、北海道強靭化計画有識者懇談会委員、上士幌町SDGs推進アドバイザー、北海道大学公共政策大学院入学など、思いも寄らない出来事やさまざまな人との繋がりが広がっていき、わずか2年の間に起きたこととは自分でも驚くことばかりで、全く想像していなかった展開が待ち受けていました。
私にとっての金言は、松田さんから教わった「主語は自分」という言葉です。この言葉のおかげで、今に繋がっていると思います。

田口 今、大学院でも学ばれていますよね。大野さんのお話を伺って、活動し続けているからこそ、新しい世界観が見えてきて、学びたいという欲求が生まれてくるのだと感じました。そこでの学びはすぐに実際の活動に活かせるので、インプットとアウトプットの良いサイクルが確立されているように思います。

松田 逆参勤交代には、ヒーローやヒロインなど、「こうなりたい」というロールモデルが必要です。その意味では、大野さんは逆参勤交代コースのロールモデル的存在です。大野さんの体験したストーリーを、今後の逆参勤交代コースでももっと伝えていきたいですね。

Profileプロフィール

大野 雅人 氏(おおの まさと)

アクサ生命保険株式会社オペレーショナルレジリエンス スペシャリスト(札幌本社勤務)/北海道大学公共政策大学院 専門職学位過程在籍
1961年神奈川県茅ケ崎市生まれ、千葉大学法経学部卒業後、日本団体生命保険株式会社(現アクサ生命保険株式会社)入社、2017年以降、同社の危機管理・事業継続を担当、2019年から札幌本社勤務となると同時に、北海道の国土強靭化と地方創生やSDGsに携わり、上士幌町のSDGs推進の他、厚岸町の観光促進や津別町のまちづくりに参画している。2019年に北海道強靭化計画有識者懇談会委員、2020年から北海道上士幌町SDGs推進アドバイザー、2020年気象予報士取得、その他、防災士、リスクマネジメント協会CRM、ISO22301(BCMS)審査員など。