
INTERVIEW
震災とコロナの逆風のなか、企業として逆参勤交代にどう取り組むか
熊本県 南阿蘇村:達城 千尋 氏
地域を支えるキーパーソンに、逆参勤交代から広がる繋がりを語っていただく「INTERVIEW」。 今回は、熊本県南阿蘇村で企業主導型として地域活性化に取り組む達城千尋氏(株式会社 阿蘇ファームランド)にお話を伺いました。

震災とコロナの逆風のなか、企業として逆参勤交代にどう取り組むか
阿蘇五岳と外輪山に囲まれた南阿蘇村は、その豊かな自然と歴史が魅力的な有数の観光名所です。自治体の誘致を受け、健康増進を目的とした施設として阿蘇ファームランドは設立されました。さまざまな年代に合わせた健康づくりができるアスレチックや、自然を活かした宿泊施設、管理栄養士が監修するバイキングメニューなどラインナップが豊富で、ファミリー層からも人気が高い施設です。
2016年、熊本地震で県内の状況は一変。着実に復興は進んでいる一方で、新型コロナウイルス感染症がさらに経済・観光に打撃を与えています。
今回は達城氏に、地域活性化に対する思いや、逆参勤交代を通じた取り組みの可能性について、松田智生(丸の内プラチナ大学副学長・逆参勤交代コース講師/三菱総合研究所主席研究員)と田口真司(丸の内プラチナ大学副学長/エコッツェリア協会プロデューサー)がインタビューしました。
コロナ禍で再認識した、健康づくり施設としての課題
田口 阿蘇ファームランドには、2018年の夏、丸の内プラチナ大学「逆参勤交代コース」のフィールドワークで施設にお伺いしました。当時を振り返っての感想などをぜひ教えてください。
達城 逆参勤交代プログラムは、もちろん自治体との連携が深いと思いますが、私たち阿蘇ファームランドは企業として参加させていただいています。当時フィールドワークでお越しいただいたみなさんには、我々の提供している健康メニューをじっくり体験いただきました。都市部のビジネスパーソンの方に体験いただく機会は有難かったですし、今後はリモートワークや出張で、宿泊・リラクゼーション・飲食などさまざまな場面で利用していただきたいですね。逆参勤交代を通じて、そういった動きが加速していくのではないかと期待を寄せています。

田口 コロナの影響でリモートワークやワーケーションが広がりを見せています。阿蘇ファームランドでの変化があれば教えてください。
達城 やはり、コロナで観光は非常に大打撃を受けました。外出を控える状況になってからは宿泊0人の日が続きましたが、施設管理もあるため完全に閉めることはできず、一定の費用が掛かるという状況でした。リモートワークに関してはインターネットネット環境が重要になると思いますが、もともと土地として電波状況が弱いんです。改善するためには大規模な工事が必要になるなど、環境を整えるには色々と課題がありますね。
田口 集客としては、マイクロツーリズムが増えているのでしょうか。
達城 もともと九州の方々は州内で旅行をする傾向があるのと、コロナの影響もあって来館されるのは九州の方が多いです。ただ、どうしても州内でお客様を取り合う形にはなってしまいますね。
田口 阿蘇ファームランドが掲げているキーワードに「健康」がありますが、コロナ禍においての手応えはいかがですか。
達城 ステイホームで、健康グッズの売り上げが上がっているなどの傾向はあると思います。一方で、外出した時にわざわざ健康のために時間を使う方が多いかと聞かれると、そう多くはないのが現状です。食事にしても健康を考えると味が薄めになったりしますので、せっかくの旅行ならば健康よりも贅沢が選ばれる印象があります。
田口 悩ましいところですね。松田さんは以前施設を訪問した時に、自分のカラダの状態をセルフチェックできる「健康パビリオン」を体験して、ウェルビーイング、ウェルネスを意識されたと思いますが、このあたりの可能性はいかがですか。
松田 大企業の健康保険組合は7割が赤字です。理由は、社員の高齢化、成人病、メンタル、花粉症、腰痛などの体調不調が顕在化しているためです。社員の健康を向上させるため、福利厚生制度の拡充は経営の必須業務だと思っています。ただ、「健康経営をするだけなら近隣の健康施設に行けばいいじゃないか」といった議論が首都圏企業で出るなかで、時間やお金をかけて「南阿蘇に行く」理由の先鋭化が必要になりますよね。
阿蘇ファームランドでリフレッシュしつつ地域に貢献する、ローカルイノベーションに携わる、被災した場所になにかしら恩返しをするのが、その理由になるのではないかと私は思います。
達城 個人ではなく法人での利用も、うまくコネクトできればと考えています。例えば、ご家族皆で一緒に来ていただいて、お子さんが遊んでいる間にご両親は健康測定をする。健康面で安心感を得られて思い出も作れる、また明日から頑張ろうと思える。遠方から来ていただくならば、そういったワークライフバランスへの意識と取り組みがうまく合致すればいいのかなと思います。
田口 阿蘇ファームランドは、家族連れで楽しめるところが強みですよね。大きな流れとして、健康については健康保険も含めて会社法人は力を入れていく分野だと思います。ぜひ、そういった部分でアイデアを出すことも、今後丸の内プラチナ大学として取り組んでいきたいと思います。
地元企業が入口となり、自治体と連携して南阿蘇を盛り上げる

松田 南阿蘇での逆参勤交代には、3つの方針があると思っています。一つ目は家族同行型。福利厚生としての保養所や、個人で楽しむレジャーなどですね。二つ目は被災地復興型。南阿蘇や熊本県の皆さんと共に支え合いながら、互いの今後の学びも含めて連携できるポイントがあると思います。
三つ目は地元企業主導型。驚いたのですが、阿蘇ファームランドは、もともと石川県の企業で、南阿蘇の活性化のために自治体から誘致されてきたんですよね。いわゆる“ヨソモノ”企業が地元の雇用と税収を生んでいるわけです。県外企業が来て地域を後押しする点に大きな意義を感じます。そういった意味でも、阿蘇ファームランドを応援したい気持ちがより強まりました。
達城 阿蘇の土地にしかないものを、どうやってうまく伝えていくかが最大の課題だと思います。
また、今後若い世代による活躍にも期待しています。地震の影響などでしばらく休止していた近隣の大学が再開したり、大きな工場が建設されるなど、自治体の企業誘致も進んでいます。
被災地復興型については、昨年の春に阿蘇大橋、国道57号線がやっと復興したので、交通インフラに対してモデルケースの町となる可能性があると思います。このような外的な要因を追い風にしながら、地域活性化に繋がっていけばいいなと思います。
田口 熊本には企業誘致が多いとのことですが、地元の人々や、自治体とどのように付き合っていくか課題を持つ企業もいると思います。その中で、別の地域から参入して地元に愛される施設を作っている貴社は、地域との繋がり方に悩む他企業にとって、参考にしたい部分があるのではないでしょうか。
松田 震災復興型の逆参勤交代として、首都圏の人材が地域の活性化に貢献できる機会は非常に多いと思います。自分の会社のビジネスとして、あるいはビジネスとは関係なくプロボノやボランティアとして関わることに積極的な人もいます。
達城 逆参勤交代の制度や連携を一緒になって作り上げていくことは、非常に有難い話です。その上で、何をコンセプトにしていくのか、みなさんと一緒に練り直していきたいと考えています。コロナ前には健康経営やインバウントをテーマに考えていましたが、その後2年間は新型コロナウイルスのために思うように動けなかったのは事実なんですよね。
戦略としてショートスパンとロングスパンの2つの考え方があり、現状はショートスパンが売上、ロングスパンがコンセプトになると思います。みなさんとは、ぜひロングスパンの方を一緒に考えていけたらと思います。
Profileプロフィール
達城 千尋 氏(たつしろ ちひろ)
株式会社 阿蘇ファームランド 営業部門
熊本県熊本市出身。高校を卒業後に渡英。日本食のケータリング会社を運営しながら約20年ロンドンで過ごす。
海外生活から心機一転、ふるさとの地で観光業に携わりたく現在に至る。観光業ならではの言葉など勉強、失敗しながらも何事にもチャレンジすることをモットーに日々奮闘中。ふるさとの活性化にもつながるよう売り上げアップを目標に活動を続けている。